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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)679号 判決 1973年11月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

株式会社の取締役または監査役であつた者に対して支給される退職慰労金(死亡の場合の弔慰金を含む。以下同じ。)は、それが在職中の職務執行の対価であるときは、商法二六九条にいう報酬に含まれると解されるところ、同条の立法趣旨に照らすと、株主総会の決議により、右報酬の金額などの決定をすべて無条件に取締役会に一任することは許されないというべきであるが、これと異なり、株主総会の決議において、明示的もしくは黙示的に、その支給に関する基準を示し、具体的な金額、支払期日、支払方法などは右基準によつて定めるべきものとして、その決定を取締役会に任せることは許されるものであり、このような決議をもつて無効と解すべきでないことは当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和三八年(オ)第一二〇号、同三九年一二月一一日第二小法廷判決、民集一八巻一〇号二一四三頁参照)。

これを本件についてみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の認定したところによれば、(一) 本件退任役員に対する退職慰労金は、その在職中の職務執行の対価として支給される趣旨を有するので商法二六九条にいわゆる報酬であり、(二) 従来被上告会社には、退任役員に対する退職慰労金の支給に関し、原判示の内規および慣行による一定の支給基準が確立されており、右支給基準は株主らにも推知さるべき状況にあり、(三) 株主総会は、取締役会が本件退職慰労金の支給につき、右内規および慣行による基準にしたがつて相当な金額等の決定をすべきことを黙示的に決議したというのであり、右事実は、原判決挙示の証拠により首肯することができる。そうすると、このような事実関係のもとにおいては、本件決議が前記法条に違反して無効であるとはいえないとした原審の判断は正当として是認することができる。また、原判決の争点である事実の認定の資料に供された書証が偽造であるというだけでは適法な再審事由したがつて適法な上告理由とならないことはいうまでもない。その他原判決に所論の違法はなく、論旨はいずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊)

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